【特別対談】元スターバックスコーヒージャパンCEO岩田松雄氏が次代のリーダーに贈る言葉

先日、元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田松雄氏がネクストプレナー大学の顧問に就任されました。それを受けて、ネクストプレナー協会代表理事の河本との特別対談が実現。日本の社会が抱える問題から、次代のリーダーに期待することなど、幅広い視点で語っていただきました。

岩田松雄 | ネクストプレナー大学 顧問

1982年に日産自動車入社。製造現場、セールスマンから財務に至るまで幅広く経験し、社内留学先のUCLAビジネススクールにて経営理論を学ぶ。帰国後は、外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラ常務を経て、経営者として頭角をあらわし、(株)アトラスの代表取締役として、3期連続赤字企業をターンアラウンド、(株)イオンフォレスト(THE BODY SHOP JAPAN)の代表取締役社長としての売上倍増、スターバックスコーヒージャパン(株)のCEOとして業績向上等、“プロ経営者”として確固たる実績を上げてきた。現在は(株)リーダーシップコンサルティングを立ち上げ、次世代リーダー育成に注力している。

河本和真 | 一般社団法人ネクストプレナー協会 代表理事

大学院在学中に、学業と並行してベンチャー企業の立ち上げに従事。2014年4月、野村證券株式会社入社。入社後3年間、東京都内の支店にて優良法人オーナー等の富裕層や、上場企業運用部門を中心に証券リテール営業に従事。社内最速2年目での職位昇格を果たす。2017年にテック系M&Aアドバイザリーに参画。M&Aによる老舗企業の再生を提唱し、事業再生案件等を手掛けた後、2019年6月より、Growthix Capitalの創業メンバーに参画。 また、2019年9月に一般社団法人ネクストプレナー協会を創立し、代表理事に就任。

企業自体や、自分自身の強みを理解する

――ネクストプレナー大学設立の背景には、中小企業における後継者不足という問題があります。なぜ日本は後継者が不足しているのでしょうか?

岩田松雄様(以下、岩田):中小企業の大半はオーナー系企業で、創業ワンマン経営者が牽引しているケースがとても多いと思います。そうした経営者は、すべて自分で決めてしまう。すると周りは、自分で考えなくなりイエスマンばかりになってしまい、結果的に人が育たなくなってしまうのです。

また、オーナーにとって会社とは子どものような存在ですし、自分でないとダメだと言う気持ちが強い。だからこそ、「誰かに任せる」という発想が湧きにくいのだと思います。

河本和真(以下、河本):カリスマリーダーによるワンマン経営状態ですと、その人が培ってきたノウハウが見える化・仕組み化される機会がありません。そのため、次期経営者候補が育ちにくいのではないかと感じています。

岩田:社内で経営人材が育ちにくいので、外部から後継者候補を呼ぼうにも、事業内容や待遇面に魅力が感じられない企業が多いようにも感じます。その会社自体に魅力がないと、後を継ぎたいと思う人も現れません。

河本:そういう意味では、企業のミッション・ビジョン・バリューや、雇用形態、待遇面など、企業の魅力となりうる部分を更新していくことは不可欠ですよね。

岩田:企業はもちろん、個人にも言えることですが、自分自身の強みを理解して伸ばしていくことが一番重要だと思います。強みというのは、何も今の事業だけにしか使えないものではありません。たとえば新規ビジネスや業態変換をする際、地場における人脈や、ノウハウ、ブランド力などはうまく活用できるはずです。

河本:まさにネクストプレナーに一番必要なのは、その会社のコアバリュー、すなわち強みは何かを把握する能力だと考えています。事業立地の善し悪しは時代によって変わってくるかもしれませんが、コアバリューはいつの時代も変わらないはず。それをベースに、時代に合わせて会社の形態やサービス展開、ブランディングの仕方を変えていくことが重要だと感じています。

起業は目的ではなく、一つのステップ

――次に起業について伺います。日本はまだまだ起業が少ない国だと言われていますが、その要因はどこにあるのでしょうか?

河本:私自身、一人のネクストプレナーとして保育園を事業承継した経験があり、日本の教育について学ぶ機会が多いのですが、起業家や経営者が育つような教育システムではないと感じます。みんな同じことをやって、足並みを揃えてということを重要視している印象です。私も小さい頃はいろんな夢を持っていましたが、その中に「経営者」という選択肢はありませんでした。保育園から大学まで、就職という見えないレールがなんとなく引かれているように思います。

岩田:教育の問題ももちろんありますが、日本では長い間、エリートコースから落ちこぼれた人が仕方なく起業するように捉えられていたように思います。

河本:仕方なく、ですか。

岩田:行くところがないから起業する。そして一度サラリーマンを辞めてしまったら、もう二度と大企業勤めに戻れない。ですから優秀な人材が起業しにくいのです。

河本:なるほど。

岩田:一方でアメリカを例に挙げると、起業した会社を売却して上場企業に入り直す、といった流れが普通に存在しています。経営者と社員という立場を行ったり来たりできるわけです。

もちろん日本でもこうした動きは少しずつ生まれていますし、今後も増えていくと思います。かつて官僚養成大学だった東大も起業する人が増えてきています。起業は目的ではなく、キャリア形成の一つのステップという意識が広まれば、必然的に起業を志す人も増えるのではないでしょうか。

河本:「起業は一つのステップ」という言葉、すごく共感します。

岩田:いい大学に入って、いい企業に入って、一生勤めるという働き方が終わりを迎えつつあるときに、50歳で起業するのか、20代から始めるのか。後者のほうが当然失敗してもやり直せるチャンスはあるわけですね。私の年齢から見ると、やり直しができ、チャレンジできる機会が多いのはとても羨ましく思います。

実地研修での経験は唯一無二の財産になる

岩田:先ほど河本さんが日本の教育について言及していましたが、たしかに日本では、起業について学ぶことのできる機会は少ないですね。ビジネススクールを見渡してみても、アメリカでは自身で起業をされている教授が多くいらっしゃいますが、日本ではビジネスで実績をあげている人が教えているケースはほとんどありません。起業や経営を学ぶ場に、実地経験のある人やロールモデルが少ないことは問題ですね。

河本:だからこそネクストプレナー大学としては、起業や経営を志す人にしっかりとコミットしたい、社長になりたいと思ったタイミングから実際に社長になるところまでをフォローさせていただきたいと、強く考えています。

岩田:心強いですね。「社長になれる」と確信している状態と、「なれるかな?」と疑問に思っている状態とでは、経営の勉強に対するコミットメントの度合いがまったく変わってくると思います。

また、ネクストプレナー大学では実地研修なども提供していくと思いますが、日本のビジネススクールではそうした機会を提供しているところはほとんどありません。実在する企業の中で、業務分析やビジョン作成などの経験ができれば、それは受講生にとってとても貴重な財産になると確信しています。

河本:おっしゃるとおりで、ネクストプレナー大学では経営者になるまでの道筋を逆算して、実地研修などをプログラムに盛り込んでおります。 また、志を共にする仲間との出会いも、ネクストプレナー大学として提供したい価値の一つです。私は「竹馬の友」と呼んでいますが、卒業した後も経営や起業について話すことのできるコミュニティをつくっていきたいと考えております。

岩田:同じ志を持った友だちができるというのは、非常に重要なことですね。師弟の立場よりも、対等な立場で学ぶ受講生同士のほうが、悩みを共感しやすいでしょうから。

常に学び続け、知識をアップデートする

岩田:ネクストプレナー大学は、学び直すという観点からも、貴重な機会を提供できる場所だと思っています。たとえ大学で経営学を学んだとしても、5年や10年もすれば学問は大きく変わります。ですから社会に出た後も、常に学び直して、知識をアップデートしていく必要があります。最終的に起業をしなくても、一度立ち止まって経営とは何かを学ぶことは、とても実りのあることだと思います。

河本:ありがとうございます。経営者であるかどうかに関わらず、忙しくなってくると、どうしてもインプットのアップデートを怠ってしまうものだと思います。知識をアップデートする場としても、ネクストプレナー大学は意欲ある方たちの役に立ちたいと考えています。

岩田:私はビジネススクールや研修で学ぶことの目的は、「視座を高める」「視野を広げる」「視点を鍛える」、この3点に集約されると思っています。

「視座を高める」とは、経営者としての目線を持つこと。経営者は全体を見渡して「この会社を数年後どうしたいのか」というビジョンを掲げる必要があります。そのためには、世の中の動きやトレンドに敏感でなくてはなりません。

「視野を広げる」というのは、いろんな知識を取り入れること。例えばイノベーションというのは0から1を生み出すことではなく、異なる2つのものを組み合わせて多くは生まれるものです。今取り組んでいる事業にまったく別のものを組み合わせることで、ユニークな、新しい事業が生まれる可能性があります。だからこそ、広くアンテナを張り、視野を広げる必要があると考えます。

また、情報の洪水の中でも、思考力、経験や知識の量によって、捉え方はまったく違ってきます。これが「視点を鍛える」ということです。 学び続けることは、経営者を志す人も、そうでない人も、等しく大切にすべきことだと思います。起業や経営だけではなく、人生そのものを豊かにすることにもつながるからです。

リーダーには覚悟がいる。その分やりがいもある

――今回、ネクストプレナー大学の顧問に岩田さんが就任されましたが、河本さんはどのような化学反応が起きることを期待されていますか?また、岩田さんは受講生にどのような価値を提供したいと考えますか?

河本:岩田さんのような経験をされている方は、日本中を見渡してもほとんどいないと思っています。岩田さんが培ってこられた知識やノウハウは、これから経営者を目指す人たちにとって財産になると確信していますので、私たちとしても一人でも多くの方に岩田さんの声を届けていきたいと考えています。

岩田:私は社長に就任した際、真っ先に着手したのが社内に自分の後継者を探すことでした。そのときと同じ気持ちで受講生と接していこうと考えています。特には厳しいことも言いますが、「こういう経験をしたほうがいい」「この本を読んだほうがいい」など、一人ひとりの得意・不得意に合わせた勉強方法を伝えていきたいですね。

河本:とても心強いです。岩田さんは、リーダーや経営者に向いている人はどのような人だとお考えでしょうか?

岩田:あえて厳しい言い方をしますと、リーダーに向いてない人は当然います。それは能力や知識の問題ではなく、人徳のない人です。名誉欲や権力欲、金銭欲から人のうえに立とうとする人です。人の上に立つ人には、それなりに人徳や器が求められます。自然と周りの人からついていきたいと思われるような人、自分を犠牲にしてみんなを幸せにしたい、と考える人がリーダーに向いていると思います。

また、リーダーや経営者は権限が大きく非常にやりがいはありますが、その反面とてもつもなく大きな責任を負わざるをえません。時には批判を受けたり、厳しい決断もしなくてはならない。命を削るような大変なことも多い。ですからその覚悟を持てる人でないと難しいと思います。

河本:経営者のやりがいという点では、私自身、ものすごく仕事が楽しいと感じるタイミングがあったように思います。それは社員時代が楽しくなかったということでは決してなく、楽しいことがもっと大きくなったという印象です。そういう意味で、人生がより豊かになったと感じています。

経営者はまず「見る」、そして「理解する」姿勢が大切

河本:岩田さんは経営者としてさまざまな企業を経験されてきましたが、社外の立場からその企業に入って経営に参画するというのは容易なことではなかったと推察しています。どういったことを心がけていたのでしょうか?

岩田:まず最初の3ヶ月は、現場に行って作業を手伝ったりして、お客様を訪問したり、しっかりと「見る」ことに注力してきました。それと社内の多くの人とフォーカスインタビューをしました。問題解決の答えは社内にあることが多いのです。またそれを通じて人の評価も行います。しかし客観的な立場で見ていると、その企業の良くない部分やおかしいところはたくさん目に付くことでしょう。しかし、そこにはその企業なりの歴史が必ず存在します。もともと-100だったものを、ようやく-50の状態にまで戻した成果なのかもしれません。そうした背景を想像せず、すぐに「おかしい」と詰問しては、現場からは反感を買って当然です。だからこそまず「見る」、そしてその背景を理解する姿勢が大切だと思います。

河本:私たちも、ネクストプレナーが真っ先に取り組むべきは関係構築だと捉えていたのですが、今の岩田さんの言葉はすごく勉強になりました。その企業や働く人たちの背景を理解することが非常に重要だと、改めて実感しています。

岩田:新参者の経営者は早く実績を上げたいという焦りがあるため、おかしいと感じたところは頭ごなしに否定してしまいがちですが、3ヶ月は我慢して、じっくり見てほしいと思いますね。もちろんクイックヒットとして、早い段階で一つでも良いから皆が喜ぶ成果を出すことも大切です。

企業そのものだけではなく、人を見ることも重要です。会社にはいろいろな人がいますが、第一印象と、半年後の印象は違ってくることもあります。人に対する評価も慎重にするべきです。しっかり多面的に情報を集めて人を評価すべきです。

河本:「見る」、そして「理解する」ことの大切さを、ネクストプレナー大学でも教えていきたいと思います。

本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました!