Jobpicks編集長として、日々様々なキャリアを歩む方に出会われている佐藤留美さんとネクストプレナー協会代表理事の河本の対談が実現いたしました。「ネクストプレナー」という新しいキャリアについて、意見を交わしています。
こちらは後編です。前編がまだの方はぜひこちらからご覧ください。
この記事でわかること
ネクストプレナーは苦労も多い仕事だが、それ以上に大きなメリットがある
佐藤:ネクストプレナーはM&Aによって企業を承継するのですから、従業員も引き継ぐということですよね?
既にカンパニーカルチャーがあるのですから、PMIも大変重要なことだと想像します。実際に歓迎されるのでしょうか?
河本:実は私が承継した保育園の事例はそこで大問題が起こりました。保育園を承継する予定だったのは当初私ではなく別の方で、私はそのディール担当者でした。
当然のことながら、その保育園には既にカルチャーが存在していて、それに彼らはプライドを持っています。
保育園というビジネスモデル上、クライアントは主に保護者様になります。
保護者様は保育士さんを先生として慕ってくださっている。そこに新しい経営者がぽんとやってきて、経営すると言い出したわけです。
当然、保育士さんも保護者様もどういうことか説明してほしいですよね。それが原因の一つにもなって、ネクストプレナーの心が持たなくなってしまい、代打として私がネクストプレナーになりました。
全方向を不幸にさせてしまいました。このモデルを実現するには事前のセットアップが極めて重要だと分かり、ネクストプレナー大学が生まれているんです。
佐藤:セットアップとは具体的に何でしょうか?
河本:例えばマインドセットです。ネクストプレナーは後継者不在企業に入るとき、なかなか受け入れてもらえない中で、どうコミュニケーションを取って受け入れられるようにするかというスキル面もそうですが、経営者になるということはこれまでと全く異なることで決して簡単なことではないということを伝えています。
例えば、分かりやすく言うと、経営者になった途端にキャッシュフローに追われます。
会社員の時は、会社の残金がいくらで、来月はいくら支払いがあって、あと何か月生き残ることができるのか、を知ることはありません。
これが経営者になると当然ながら考えなければならなくなり、恐怖感が急に押し寄せてくることもあります。これは人の心を簡単にむしばみます。
経営者にはそのような苦労が必ずある。それでも経営者になりたいのか?ということをきちんとマインドセットするようにしています。
佐藤:あといくら会社に残っているかなんて会社員では考えることがありませんものね。
SmartHRさんでは全社員に会社の残高を公開しているそうです。経営自体をクリアに行っているし、社員全員に経営者マインドを持ってほしいから行っているそう。
ただ、そうはいっても本当のところでは会社員という立場だとその感覚を持てないですよね。
例えば現場のマネージャーは人が欲しいと伝えますが、採用ってマネージャーが思っている以上に大きな投資です。採用活動そのものにもコストがかかっていて、雇用後は給料だけでなく社会保険料もかかっていています。そして解雇もできない。
河本:キャッシュフローについては分かりやすい話でしたが、採用しかり、すべての意思決定に責任とお金が付きまとうという点は、会社員と経営者では圧倒的に異なるでしょう。
しかし、それで判断が遅れてしまうと会社は進んでいかない。どんな時でも意思決定を行っていかなければなりません。
佐藤:ネクストプレナーになるとそういった困難が待ち受けている中でも、河本さんが考えるネクストプレナーになる最大の利点は何だと考えていますか?
河本:もちろん何もかも変わるのですが、特に代表取締役という名刺を持つ事で出会う方が全て変わることが一番のメリットだと考えます。
誰しも誰かに会って情報収集をし、新しいビジネスに応用していくという連続だとすれば、部長と代表取締役では可能性の幅が全く異なります。
努力次第ではもちろん年収をあげるとか自由な時間を手に入れるということも可能ですが、これはやり方次第です。
佐藤:出会う方が全く異なるという話はおっしゃる通りですね。
ネクストプレナー大学が1→10を得意とする人材のコミュニティに
佐藤:そもそもの話になるのですが、ネクストプレナーは1→10を得意とする人材が適任だと思いますが、そういう人材が集まるコミュニティってあるのでしょうか?
市場にとってかっこいい名前があるということはとても大事だと思っています。
例えば、第二新卒という名前がつくと、それまで批判的に見られがちだったにもかかわらず、堂々と第二新卒として転職活動をしやすくなりましたよね。
UXデザイナーという名前の職種が出来ると、自分はUXデザイナーだと思って、それまではウェブデザイナーだった人もUXデザイナーっぽい仕事をしますよね。
カスタマーサクセスという肩書を付けたら、その仕事を行う人はちゃんとカスタマーをサクセスしようとしますよね。
同じようにネクストプレナーという事業承継をして経営を行う人に対する名前が生まれたことはいいことだと思います。
そうするとコミュニティができる。
コミュニティができると、同じような悩みを共有してお互いを助け合ったり、情報交換をしたり、学び合ったり、支え合ったりすることが出来ます。
ネクストプレナーは1→10人材が適していると言えども、社長は社長。先ほどの苦労もそうですし、きっと孤独ですよね。
河本:そうなんです。ネクストプレナー大学を運営する上でコミュニティを作ることは重要視しています。
チャレンジングなことを行うときに同じ志を持つ人が一人でも多くいると、すごく支えられます。
一方で、私自身が経験しましたが、経営者になってみると、ほぼ毎日困難の連続です。
社会一般的には社長は毎日ゴルフに行ったり、会食をしたりというイメージが強いかもしれませんが、見えている部分こそキレイかもしれませんが、足元ではとてもバタバタしていたりします。
この困難の連続を相談できる人がいるか、手を差し伸べてくれる人が何人いるかは、事業の存続可能性に大きな影響を与えると実体験として思っています。
ネクストプレナー大学というコミュニティで助け合える仲間を増やしていきたいですね。
ネクストプレナーは多くの会社員が得たいはずのキャリア。社会貢献性も高い。
佐藤:ネクストプレナーになることは、面白い挑戦ですしやり甲斐のあるキャリアだと思います。
実際に総合商社では子会社社長として出向するというのは出世コースですよね。
例えば先日亡くなられた日立の中西宏明さんは日立グループの中で特に経営が苦しかった企業に立て直しするべく派遣され功を成し、本社に戻ってきた後に日立グループの社長になりましたよね。
いわゆる王道の出世コースはネクストプレナーと似たような動きをしている事例だと思います。
ただ、この出世コースに乗るには熾烈な社内競争を勝ち抜く必要があり、非常に難しいことです。奪い合いですよね。
そこを自身でネクストプレナー大学に入学し、学んで、トライできるというのは面白いですよね。個人の経験として取りに行きたいもののはず。
河本:おっしゃる通りで総合商社やファンドでは、ネクストプレナーのような形である企業の経営者として入り、業績を伸ばしていくことを求められている仕事が存在しています。それに近しいですよね。
ネクストプレナー大学ではもちろん様々な引き出しを作るお手伝いをしますが、そこで学ぶことが出来ることは当然100にはなっていない。
私としては最終的には立場が人を作ると思っています。
ネクストプレナーとして経営者になってみて初めて、学んだ知識や経験が生きるんです。現場に立たされて初めて自分の思考が回ってくるものですから、どんどん積極的に現場に入ってきて、自身を変化・進化させていってほしいと思っています。
佐藤:きっと初挑戦のことばかりの毎日なのでしょうね。
河本:本当にその通りです。私も保育園の経営をするとは想像もしていなかったですが、いざ飛び込んでみると、学べることが非常に多いですし、保育園経営者になったことで気づいたことが本当にたくさんあります。
佐藤:そしてあとは、覚悟でしょうね。やはり組織のトップというのは覚悟が違います。覚悟を決めた人ができる職種です。いざとなったら逃げだしてしまう人には人はついてきませんから。
その組織には社長であるあなた以上の人は存在していない。いざとなったらお尻をふく覚悟ですよね。
河本:ネクストプレナー大学では知識を提供する等教育について伝える機会が多いですが、私たちの存在価値は経営者になりたい人の背中を最後に押すことだと思っています。
最後は自分が覚悟を持って挑戦しなければならないですが、その最後の一歩をぐっと押したいと思いますし、そういう存在にネクストプレナー大学がなりたいですね。
佐藤:新たにアントレプレナーにならなくても既に顧客基盤を持っているところもたくさんあります。
それこそ河本さんが承継された保育園は分かりやすい例ですよね。保育園がなくなってしまったら困ってしまう地域の保護者の方がいる。社会的な存在意義がある会社・組織はいっぱいあります。
河本:私は東京都内での承継ですが、地方に行くとなおさら多いでしょうね。
そこに対して、ゴーイングコンサーンを中小企業でとり続ける仕組みを用意しないと、日本のGDPは下がってしまいますし、地方創生なんてできません。 そこに貢献できる人材にネクストプレナーがなれたら嬉しいですし、そういうネクストプレナー候補が入学してほしいです。
貴重なお話をいただき、ありがとうございました!
プロフィール
佐藤留美|Jobpicks編集長。NewsPicks副編集長。
青山学院大学文学部卒業後、人材関連会社勤務などを経て、2005年編集企画会社ブックシェルフ設立。2014年7月からNewsPicks編集部に参画、2015年1月副編集長。2020年10月にNewsPicksの姉妹キャリアメディアJobPicksを立ち上げ、編集長に就任。最新刊に『JobPicks未来が描ける仕事図鑑』(共著)、単著に『仕事2.0』、『凄母』(東洋経済新報社)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)などがある。
河本和真 | 一般社団法人ネクストプレナー協会 代表理事
大学院在学中に、学業と並行してベンチャー企業の立ち上げに従事。2014年4月、野村證券株式会社入社。入社後3年間、東京都内の支店にて優良法人オーナー等の富裕層や、上場企業運用部門を中心に証券リテール営業に従事。社内最速2年目での職位昇格を果たす。2017年にテック系M&Aアドバイザリーに参画。M&Aによる老舗企業の再生を提唱し、事業再生案件等を手掛けた後、2019年6月より、Growthix Capitalの創業メンバーに参画。 また、2019年9月に一般社団法人ネクストプレナー協会を創立し、代表理事に就任。