「経営者になる」というキャリア形成が選ばれる理由

戦後最大の変革期:キャリア形成が個人に任される時代

 日本型雇用と呼ばれる「終身雇用」「年功序列」「新卒一括採用」「企業別労働組合」といった制度は、第二次世界大戦後の戦後改革の結果として日本企業に定着し、高度経済成長を経て確立したと考えられるシステムです。このシステムにおいては雇用が守られる代わりに企業側に個人のキャリア決定権があり、良い大学に入り、新卒で良い会社に入ると一生安泰という時代でした。

 しかしながら様々なメディアでも取り上げられているように、いまは「個人でキャリアを積み上げていく時代」になりつつあります。

 日本型雇用システムがうまく機能していた時代とは異なり、2025年4月には定年は65歳まで引き上げられ、また2021年4月に施行された「高年齢者雇用安定法」では、70歳までの継続雇用制度が努力義務として新設されています。

 とはいえ、現在は人生100年時代。もし100歳まで生きる場合、65歳で定年を迎え、残りの35年間を貯蓄を切り崩して生活をしていくことは不安を抱えざるを得ません。

 また今後70歳、75歳まで働き続けることが可能なのか。それまで息切れすることなく働くためには、40歳ごろを節目にこれまでの経験を活かして、第2のキャリアを築くことが必要だという視点が近年生まれているのです。

 そして、定年後の長い期間も、「年金」以外の収入を継続的に得るためのキャリア形成が、安定的な老後を送る上で重要と考えられています。 戦後以降、日本の労働環境における過去最大の変革期といえる現代において、新しい働き方や価値観を理解し、40歳頃に自身の今後キャリア形成について考えることは、人生全体を俯瞰するためにも大変良い機会です。

「経営者になる」というキャリア選択のすすめ

 40歳を迎えるにあたりキャリアを考え直す際に、ぜひ検討していただきたいキャリアが「経営者になる」という選択です。

 これまで10年以上企業に勤め奮闘されていた方は、おそらくマネジメント職につき、複数名の部下を抱えながら結果を出すことにコミットされていたことでしょう。またその際にはきっと強く経営者視点を求められてきたのではないでしょうか?

 企業としては、各部門・各部署に経営者視点を持った人間がいることで、各組織における判断の精度や行動のスピードが上がりやすくなるため、そのような人材を企業の上層部や事業の中核人材に求めることは必然です。

 40歳前後の方となると、一般的にはマネジメントが出来る前提となるため、転職や昇進において、「経営者視点」はより強く求められていくことになります。これについては、これからも変わらない評価項目となるでしょう。
 つまり人生100年時代において、長期間にわたり個人の価値を維持していくためには、「経営者目線」が磨かれていることが必要になります。

 では、他の同世代より「経営者視点」を磨くためには、何が一番の近道になるのでしょうか?

 これまでの日本社会であれば、地道に企業内での評価を積み重ね、マネジメント層に到達し、そこで「経営者視点」を学ぶことが一般的でした。しかしながら、企業内で昇進することは「実力」以外の要素(例えば、上司との相性や派閥、巡り合う仕事の運など)も大きな影響を与えてしまい、真に実力のある方が必ず昇進するわけではないことも事実です。

 また個人の自己研鑽として、ビジネス関連の書籍を読んだり、学校に通うことも「経営者視点」を磨く方法の一つではありますが、実践に勝る学びが得られるわけではありません。

 そこで、30代後半から40代で自ら「経営者になる」というキャリアを積むことのメリットを考えていただきたいのです。
 大きな組織でのマネジメント経験によって、「経営者視点」を身に着けることは可能ですが、実際に「経営者になり企業を経営する経験」と比較すると、判断の精度や行動スピードの観点からまったく異なる経験と言えるでしょう。  「経営者になる」というキャリアは今後のキャリアのための一つのステップ。実際にアメリカでは、経営者経験のある方がヘッドハントによって上場企業に入り直すといった、経営者と社員を行き来する例も豊富に存在しています。この流れは、既に日本でも訪れており、このキャリアの多様性こそが、「個人でキャリアを積み上げる時代」において、必要な要素となり得ます。

「経営者になる」ための方法

 ここまで「経営者になる」というキャリアを形成することをオススメしましたが、ではどうすれば経営者になることができるのでしょうか? 経営者になるための方法は、3種類あります。

社内昇進によって経営層まで上り詰める

 現在企業で働いている方々にとって、今置かれている環境で目指すことができる方法です。想いの差はあれど、これを目指している方が多いのではないでしょうか。

 日本の上場企業社長の平均年齢は58.7歳(帝国データバンク調べ)となり、近年若返りの傾向にあるものの、たった一人の社長の座にまで上り詰めることは大変険しく難しい道のりです。大企業であれば多数いる同期の中で勝ち残るだけでなく、前後の年齢にもライバルはたくさん。不確定要素も多く、成果を上げていれば良いという話でもありません。経営者になる方法の1つではありますが、企業規模が大きくなればなるほど実現することの難しさは高まります。

起業・独立をする

 「経営者になる」と言われたときに、方法として一番に思いつくものはこれなのではないでしょうか。日本においても起業する人は増え、2020年には13万社を超えています(東京商工リサーチ調べ)。

 様々なメディアで日々取り上げられているスタートアップのサービスを見ると、こんなアイディアはどこから生まれたのか?自分にはこんなアイディアは思いつかない…と思われる方も多いでしょう。

 また「起業に必要な能力」と「経営者として必要な能力」が必ずしも合致するわけではない点も注意が必要です。

 起業に必要な能力は、0から事業を作ることになりますので、競合他社との差別化を図ることが出来るアイディアを生み出す力、またスタートアップの場合、その事業をいかに市場に定着させるかという点が成否を分けますので、マネジメントよりも事業推進させる能力の方に重きが置かれます。さらに少ない資本力でスタートせねばならないため、キャッシュフローの危機とや社員の離職、新たな競合の参入など逆風も多く、粘り強い忍耐力や逆風に立ち向かっていく挑戦心が特に必要となります。 このように、「起業に必要な能力」と「経営者として必要な能力」は重複する部分はありますが、企業や事業の置かれているステージによって経営者が発揮せねばならない能力が異なります。

既にある企業を承継し、経営者になる

 30代後半から40代の方が、自ら「経営者になる」というキャリアを形成する上で、この方法が最適となります。
 親族内で承継することが当たり前だったこれまでと異なり、近年親族外に承継し、企業を存続させる選択をする経営者が増えています。

 さらに「日本式サーチファンド型事業承継」と呼ばれる新しい手法により、より多くの企業が親族外承継のチャンスを得ることができるようになりました。同時に日本のビジネスマンにとって、自ら「経営者になる」というキャリアを選択することができるようになり、今後この流れはますます加速していくことが予想されます。

 何故なら、2021年現在、業績が黒字にもかかわらず、後継者不在を理由に廃業を検討している企業は日本に127万社(経済産業省調べ)。日本産業を下支えする中小企業の多くが後継者候補を探している中で、優良な中小企業を承継し、経営者の経験を積むことが可能です。

 また、承継する企業が黒字であれば、キャッシュフローに悩む必要もありません。今ある事業を伸ばすことを求められますので、先ほどの起業に求められる能力である0から1を生み出す力よりも、マネジメントに重きを置いた1を10にする能力を磨く必要があると言えるでしょう。

まずは経営に触れる機会を作ることから始める

 経営者になる方法について、3種類をご紹介しましたが、とはいえ、経営経験がない状態で、「経営者になる」ことを目指すことも非常に勇気のいることだと思います。

 雇用されているという立場は、やはり守られているという感覚もありますし、精神的な安心も大きいものがありますから、それを手放すことは相当な覚悟を要します。

 2020年11月にスタートした「ネクストプレナー大学」は、既にある企業を承継し、経営者になることを目指す方々のために、経営の知識提供・実地研修・企業や投資家とのマッチングを伴走するべく設立されました。「経営者になりたい」という方には、承継までの機会提供を行い、また同じ志を持った方と仲間になることが出来ることは、一人で悩みがちなキャリア選択の一押しをしてもらえるきっかけになるでしょう。

 また、「まずは経営とはどういうものかを知りたい」という方や、「経営について体系的に学んでみたい」という方に向けて、経営に触れるための機会として「ネクストプレナーOnline」 という短期講座も新たに開講します。

 3か月~3か月半で経営について学ぶことが出来るプロジェクト型オンラインスクールで、経営に触れる機会を作ってみるという一歩も大変オススメです。

 個人でキャリアを形成していかなければならない今、「経営経験あり」というキャリアを形成することは、その後のキャリアに大きな影響を与える一歩になるでしょう。